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いつかすべてが幻想入りしたら。おいていかれた景色の中で



誰もいない駅のホームで、口付けを交わすの。
吐息を相手の口内に吐き出すだけの、口付けというには滑稽な行為だけど。

人目が少なく、人目がないのは予定調和。
だから『人前での過剰なスキンシップは確認行為』っていう、どこかで誰かが提言した言葉も今の二人には意味がないの。

若さゆえの過ちか。愛の衝動を止められない二人の若者がいるけど、それもご愛嬌。
交わす二人が同性同士なのもご愛嬌。だってここは予定調和の世界なんだから。

幻と現の境界があやふやになり、二つの線が入れ替わったら。

身包み剥がされ、洋装を纏わされ。

在り来たりな制服姿の金髪と黒髪が交じる。

人が消えた廃墟の中で。時の狭間に魅入られながら。



「霊夢」
「アリ、」

耳をつんざく不快な金切り声が響いた。
それはどこかの世界での『列車が通過する時の警告音』。

まばたき一つの間に、至る所に人の塵が溢れ返った。

二人の少女が消える。






「不思議な夢を見たわ」
「あら、私も」
「嫌にリアルだったけど」

 アリスが自分の口元に指をやる。
 節目がちな瞳からはなぜか色香が漂い、霊夢は素知らぬふりで顔を逸らした。

「霊夢、へんてこな服着てたわ」
「アリスもよ」
「でもよく似合ってた。太ももも眩しかった」
「下種な言い方ね」
「本当なのよ。黒髪が白のシャツとよく合っててね。けど辺りに誰もいなかった。見渡す限り人工物で、自然を感じるものは通り過ぎる風だけ。人が消えた後の世界のようだった」

「遠い未来の記憶かもね」

 消えた世界が知ってるの。私たちの記憶。

「さみしいわね。魔理沙とか連れてこなきゃ」
 アリスは腕を組み、ぶつぶつと呟く。

「そうね。でも、消えた世界の中でも、あんたと一緒にいたいわ」

 笑っていった霊夢の言葉に、アリスも笑い返した。






UP 13/3/11

どちらかというと一見ネコっぽいアリスがタチ的にむらむらしてたり、 つんとした霊夢が受け受けしいのが好き




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