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夏の夜の夢
それにしても毎日すごい暑さね……。
幻想郷。夏。
私、博麗霊夢は日もとっぷり暮れた夏の夜に、近くのせせらぎまで足を運んでいた。
妖怪の山のふもと、河童が現れるよりももっと、流れの穏やかなところである。
まだ日が沈みきる前、太陽が山の稜線にすっぽり隠れ、山の輪郭を夕暮れの赤がなぞる頃、私はここにやってきた。そして今は、来る途中に捕まえた蛍を、木でできた虫かごに捕まえ、灯りの代わりとしている。
「ふぅ、冷たくて気持ちいい」
山から流れ着いた、比較的大きめの岩石に腰掛け、渓流に足を浸す。
時の流れを感じさせるものが何もないような静かな空間。しかし絶え間なく辺りを満たす川のせせらぎ音は耳に心地よく、そこかしこを浮遊する蛍のエメラルドグリーンはなんとも幻想的だった。
ところどころに蛍とは違う光源が消えては現れ、そしてどこかへと浮遊していく。おそらく妖精のものだろう。
そんな一帯の中にありながら、私はちゃぷちゃぷと水の中で足を遊ばせた。
そういえば近頃は遊泳もしていないな……。そんなことを漠然と考えているときだった。
「……誰」
気配がした。それは辺りを覆う虫や植物たちの存在ではなく。
獣以上。せっかく暑い中、ひっそりと涼を満喫していたのに、それを壊すような、熱い体温と呼気を持つ部外者。
場所はうしろ。おそらく、自然の中に身を隠すことなく、そこにぼんやりと立ち尽くしている。後ろに目はついていないけれど、私にはその背格好、姿勢まで頭に浮かんで取れた。
あとは何者か判別するため、私はゆっくりと振り向く。
「…………アリス?」
暗闇の中でもとっさに目を引く、その鮮やかな金髪。肩の上辺りに揃えられたそれと、その下の蒼い瞳、薄く横に引かれた唇に、私の緊張が一気に弛緩したのがわかった。
「なんだ、驚かさないでよ」
この妖怪は、人間に友好的である。そしてへたな人間よりもよっぽど礼儀もある。
一人納得し、私は足の浸る川面へと視線を戻した。
「霊夢、何をしているの?」
「涼を取りに」
答えながら、後ろから聞こえてくるその声に、なにがしかの違和感を覚える私。なんだか響き方が違う気がする。そういえば
「あんたこそ何しに……」
振り向き、確認しようとしたときだった。
「…………霊夢」
「っ……」
私はいささか動揺した。本当に一瞬で、大したことはなかったけれど、けれどあまり動じない私の心が一瞬、ぴくんと跳ね上がったのは確かだった。私はアリスに後ろから抱きしめられていた。それもそっと抱擁するものではない。首筋に顔を埋められ、私はアリスに抱きすくめられていた。衣が擦れる。
「あんた、何して……」
暑苦しい、とでも口が勝手に口走ろうとしたときだった。
「霊夢は私に、こういうことをされるのは嫌?」
「嫌ではないけど……どうしたかとは思うわよ」
「なら、いいじゃない」
「…………涼を取りにきたのなら、せめて隣に、」
「ずっとこうしたかったの」
今が冬ならば、凍える寒さと、研ぎ澄まされた空気、そして張りつめた時の流れに、もしかしたら違和感を覚えなかったかもしれない。
けれど、うだるような暑さをたたえる夏の夜で。巫女としての感以上に、私には人間的な感として、これは夢かも、と思い到る。それは幻想的な、ずっと続くことを願うものではなくて。
違和感。
「れ」
「あんた誰」
それなのに驚いたのは、心のどこか、本当に隅の、無意識のさらに底。そこでもう一人の私が、このままいつまでも甘い言葉を聞いていたいと、願っていたこと。
「…………」
「私は博麗霊夢。妖怪退治を生業とする巫女よ? 我ながら気づくのが遅すぎたぐらいだわ」
そんなことを、臆面にも出さずにそれと相対する私。
「いむ」
「正体を現しなさい」
「キキキ」
毎日、幾百幾千と、ここ幻想郷では、有象無象の姿形問わず、新たな命が誕生し、そして消えていく。生物もあれば、異形のものであることも沢山。
だからそれが今まで目にしたことのない、何かでも、別に驚くに値しないこと。
袂に隠してあったお札に手を添え、それと相対する準備を整えた。
「いやぁ、ばれちゃったか」
一瞬の煙とともに現れたのは、どこか間の抜けた声と、そして額に葉を乗せた、狸の化身だった。
「見ない顔ね」
「つい最近、変化できるようになった、ただの一介のたぬきだから」
「で、人を馬鹿しにきたと」
選ぶ相手が間違ってる。そんなに腹が立っていたわけではないが、手持無沙汰にお札でその頭をはたいてやった。
「あいた! ち、ちがうよぉ……」
霊力は込めていなかったが、それでも妖怪には人間がハリセンで叩かれるには痺れるらしい。
「実は…………」
「って、早くそれを言いなさい! 確か、たぬきよりもきつねの方が、いや、きつねは人を誘惑するために化けるって言うじゃない!」
「なんだよぉー、知らない、そんなこと。ただ私は、あいつとどっちが変化するのがうまいか、勝負しようって話になって。で、ちょうどお互いの姿に変化する相手が、あんたたちだっただけで」
「ぐ、ぬ……」
なんとも言えず、顔を赤くする私。しかしたぬきは気づいていないようだ。その証拠に勝手なことを言い続ける。
「私、疲れてきたから、もう寝る。にんげんのすがたでいるのが、もう、」
「って、こら!」
「それと言ってなかったけどね、巫女さま。私たち化け妖怪は、相手の気持ちの不意を付けるものの姿に、形を変えるんだよ。子供が相手なら母親に。男が相手なら女に。恋をしている相手なら想い人に」
「は、はぁ?」
「つまり私のすがたは貴女こそが」
「それ以上言わんでいい!」
口をばふっと両手で塞いだ。同時に少女の姿をしていたたぬきが、ただのたぬきの姿に変わる。見ると盛大に眠りについていた。
「こんの」
妖怪といえど、まだ子供のようなもの。そしてたぬきとしても、どうやらまだ幼い子たぬきのようだった。仕方ないから、腹いせに尻尾で連れまわすだけの刑に済ませてやることにする。
「このくそ熱い夜に! よくも余計な仕事をを!」
私は一目散に妖怪の森へと飛び立っていった。
――何を馬鹿なことを。
まさにそれこそたぬきの化かしだ。まず、その言い分が、人を騙すものだとなぜ疑わないのか。
どちらかというといつもマイペース。心を波立たせる私ではない。妖怪としても動物としても子供の言い分など、戯言として一笑に伏していればいいものを。
「私の姿した何かが、何しでかしてるかだけが心配…!」
闇夜を紅白と獣の尻尾が駆けていく。それはさながら一つの流星のようだったと、河童はのちに呟いた。
美しい、だなどと。そのような言葉が浮かぶなんて、それはつまり……。
私、アリス・マーガトロイドはその夜――蒸気風呂のようなうだる暑さを伴う――熱帯夜の真っ暗な森に、窓という窓からオレンジの灯りを照射させ、根をつめて研究をしていた。どちらかというと理論体系の方。
実験道具も傍らに控えたまま、パチュリーの大図書館から借りてきた蔵書とにらめっこをし、こめかみの位置でペンを回す。
そろそろ実験に移ってみる……? 傍らの実験道具をちらっと見たときだった。
コンコン
木のドアをノックする音が数度。軽やかで、上品な叩き方である。ここでまずもう魔理沙の可能性が消える。
「誰かしら」
夜更けというほどでもないけど、こんな日もとっぷりくれた夜に。幻想郷に人口の光源は何もない。
黄昏時を迎える頃には妖怪が現れ始め、夜になってしまえば、山道も街道も魑魅魍魎で一杯になる。それが視える視えない関係なくね。
「誰?」
「私よ」
「霊夢?」
木のきしむ音を立てながら開いた先には、どういうわけか博麗霊夢が立っていた。
「どうしたの? こんな夜に」
それも突然。
「どうやらこのくそ暑い熱帯夜に、たぬきときつねがくだらない変化の勝負をしてるらしくってね。心配で来てみたってわけ」
「へえ……でも気持ちは嬉しいけど、私そんな下等妖怪に化かされるほど落ちぶれていないわよ」
「…………私が騙されたのよ、さっき」
「……それは、」
「とりあえず。用心なさい」
「うん。あ、寄っていってよ。暑かったでしょ」
冷たいお茶でも。
霊夢の顔がうーんとうなるように、眉をしかめる。そうして数秒考え込んだあと。
「それじゃお邪魔させてもらうわ」
「いらっしゃい」
私の横を通り抜け、霊夢が私の家の敷居をまたいだ。
(…………ん?)
いい香り……。すごく甘ったるい、いつもの霊夢からはしない、女性らしい香りだった。
そういえば……なんだか今日の霊夢の髪はとても艶があり黒々としている。指を通したらなめらかに梳けそうだった。カラスの羽衣の光沢のよう。
「霊夢…………今日どこか行った?」
「え?」
「なんだかとてもいい香りがする」
「…………そういえば、幽香から匂い袋を貰ったからかも」
「匂い袋? 珍しいわね」
「なにか涼やかな香りはないかな、ってね……」
ん? 霊夢は敷居をまたいだ辺りで立ち尽くしたまま、中に入ろうとしない。それどころか、視線だけで私をじっと見つめている。
「な、なに?」
その目線はあまりに艶やかで。おそらく位置的に流し目のように見えたからかもしれないけれど。
「……」
なんで、どうして……。自分の思考に思わず慌てる。美しい、だなどと。そのような言葉が浮かぶなんて、それはつまりその、だから……。
「とりあえず、こちらにどうぞ」
うまく働かない、どこか熱い頭を押さえながら霊夢を案内する。なんだか調子がうまくいかない。
「ちょっと待って」
ぎょっ
体全体を思わず上に引っ張られるような感覚を覚えた。私は霊夢に手首を掴まれていた。そのなめらかな、何より優しい掴み方と言ったら。
「なななに」
「…………」
近づいて、瞳を覗き込むように顔を寄せて、――その真剣な表情と言ったら――今日は見たこともない表情ばかりで、思わず心拍数が上がる。
そしてそっと頬に手を添えられた。「え……」
そのまま短く数度、頬を指先で撫でられる。
「あ、あの……」
撫でられた場所から熱さが灯っていくよう。そしてそれは時間とともに、顔全体に霊夢の指によって拡げられていく気がする。つまりきっと今私の顔は紅潮している。
「…………あ、ごめん……!」
真面目な顔でこちらを覗き込んでいた霊夢が顔を赤くしてぱっと体を離す。
「いや、きつねかと思ってね。つまりその、今目の前にいるあんたこそが」
「それ言ったら、霊夢もそうよ」
「私は化けてるわけないじゃない」
「…………」
本当にそうなのかしら。思い返してみると、なんだか、ドアのノック音から後の、今日の霊夢はどこかいつもと違う気がするけれど……。
「本当にそう……?」
「……まぁ、化かすつもりの奴なら、はい化けてます、とは言わないわよね」
「えぇ」
そして私は気がついた。私、霊夢の偽物と本物を絶対的に見分けられるような何かを、持っているわけではないことを。
確信を持って、突き止められる何かを持っているわけではないことを。
これがもし魔理沙とかだったら、難なく当てて見せるのかしら。
可視・不可視。いずれにせよ霊夢と私との間の接点や絆みたいなものを感じさせられ、ほんの少しだけ考え込んでしまう。
私は、実のところ霊夢が気になっていた。いや、ここ幻想郷に住むもので、博麗の巫女が気にならないものはいないと思う。
みんなが近づきたがって、何か興味を惹かれて。彼女には、妖怪が好む、『面白い人間』と評される属性のようなものがある。
妖精ならば逆に戯れるように、あとは神様や鬼、千年妖怪ぐらい。彼女と、何も躊躇わず近づいていけるのは。
近づきたいのに近づけない。そして近づいても入り込めない。
私は幻想郷にありふれた、ごく中級の妖怪であると自覚していた。
近づけないから、憧れは助長され。
だからこうして、今もこれが偽物か本物かなんて見分けない。
「……なに、へこんでるのよ」
「あ。うぅん、なんでもないの。ごめん」
「…………迷惑かけたわね」
「え?」
霊夢は顔を赤くしたまま、そっぽを向いている。
「いやその……私の姿をした妖怪が、いたずらに来るとかさ」
「そういえば……どうして霊夢にはわかったの? 私の家に、『霊夢』が来ることとか」
「それはその……あの……」
霊夢は赤い顔をさらに赤くさせ、なにやら口をもごもごさせている。可愛らしくて、つい少し笑ってしまった。
「もうっ」
「ごめん」
頬を膨らませる霊夢がおもしろくて、笑いながら謝ってしまう。
もしかしたら、そうもしかしたら。この子は、普通の人間の女の子なのかもしれない。いや、きっと。
いつも堂々と、名に負けない態度をしているから、つい失念してしまうけれど。
お茶と簡単な菓子でもてなす。
たわいのない雑談で場を和ます。霊夢が訪ねてくるまで何をしていたか、とか。その内容。これから何をするつもりだったとか。
霊夢は「うんうん」とうなずきながら、話をきちんと聞いてくれる。
…
「基本的に、妖怪類は人間をだまくらかすのが好きで困るわ。時にそれが過ぎることもあるし」
「そうね……。ところで、霊夢はいつ頃まで居るの?」
「…………ごめん、迷惑だったわよね。気づかないで長居しちゃって」
「ち、ちが…っ、そういうつもりで言ったんじゃなくて……」
二の句がうまく継げない。むしろいつまでこうして過ごしていられるんだろうって、そのつもりだった。
「本当?」
「本当よ」
「なら……証明して」
「え…………!?」
都会派であり、深い洞察力があり、観察力がある、このアリス・マーガトロイドさんといえど、その言葉の意味を理解するのに多少の時間を要した。だって、だって霊夢ったら
「ど、どうしたの」
どうしてそんな濡れた瞳をしているの。
「言葉だけでは…………いまいち信用できないから」
ぷいっとつまらなそうに横を向けた顔に。
「それって…………私たちがそれほど親しい仲とは言えないから……?」
「こういうときは……冗長に言葉を紡がないものよ」
少しだけ眉をひそめて、私に黙るように促す。いつのまにか、霊夢が私の隣にいる。呼吸音がわかるぐらいには。
「私は……、ずっと前から、アリスとこう過ごしたいと思ってたわよ」
「え……」
「あんたは……アリスは、ほかの連中よりもよっぽど礼儀作法もあるし。一緒にいて心地いいし。何より、美しいと思うもの」
ええぇえ
面と向かって、というか覗き込まれるように瞳を合わせられ。その黒曜石のように澄んだ黒い瞳に、私の心が吸い取られていくような感覚を覚える。
「れ、霊夢……」
「本当よ……」
いつのまにか腰に手の感触がある。それにぎゅっと体を寄せられる。そうして頬に手を添えられた。
き、キス……。証明って、まさか……。
「え、え?」
ぽうっとしてしまって、次の動作を待っていたら、私の体が腰掛けていたソファにそっと押し倒される。大変優しい力加減で。――というか、さっきから触れる時の感触が、まるで壊さないようにと最大限の気遣いを感じる――と同時に、なぜか家全体の灯りが停電した。
「…………あ、」
暗い室内。ぼんやりと視界を塞ぐ霊夢の姿。闇に沈む天井。そこに……何か白い妖気のようなものが漂っている。
(霊夢……まさか、狐が憑いたの……?)
闇の中で、彼女は優しく微笑むけれど、それが私には不相応に淫靡に見えた。
私の体をソファに沈み込ませる、彼女の体の重さが、心地よくて、強く抵抗することもできない。
見下ろしていた霊夢の体が降りてくる。私の体を抱きしめるために。
やっぱり、気持ちいい……。
霊夢の体温、巫女の服の清廉さ、華の香り。微かに頬にかかる黒髪と、僅かに感じる胸の鼓動。
思わず背中に手を回してしまう。
(ずっとこうしていたいな……)
そう思ったときだった。霊夢がそっと少しだけ体を起こす。
「アリス……」
瞳が金色に輝く。そして、霊夢の顔が……
「だ、それはだめぇっぇぇぇええ」
「ぶっっ!!」
とっさに命令した人形が、とっさに霊夢の後頭部をものすごい勢いで強打した。……分厚い魔道書で。
途端に家の照明が戻る。きっと霊夢にもいくつかの星が見えただろうと思う。
バンッ
「アリス!!!」
「え?」
その時、玄関のドアがものすごい勢いで開かれた。そこからなだれ込むように人影が入ってくる。
「今、なんだか嫌な予感がして……。見たらあんたの家の灯りを落ちたから、心配で、来て…………みたんだけど……」
霊夢が話しながら途中で顔色を変え、すたすたとこちらにやってきた。
って、霊夢が……ふたり?!
「こっこここここここ、こいつっ!!!!」
霊夢は袂からお札を取り出すと、すぱんっと小気味いい音をさせて、『自分』の頬をひっぱたいた。
ばふん
一瞬の煙のあとに、そこに現れたのは、子ぎつねだった。幼いながらにも、立派に尻尾が数本に分かれだしている。
「こ、ここともあろうに、私が帰った後になんて……!」
「帰った!? 霊夢いつのまに帰ったの?」
「話の途中からアリスが船漕ぎだして。眠っちゃったから、毛布を掛けてお暇したのよ」
「う、うそぉ……」
「その証拠に、毛布あるじゃない」
「…………本当だ」
ソファには崩れた毛布の塊がある。そして傍らには目を回した子ぎつね。
微妙な沈黙が流れる。
「…………っていうか、その……変なこと……しなかった? 私……」
「え、あ……え、っと……」
赤い顔で聞いてくる霊夢。言葉の途中でちらっと私の胸元を見た。追いかけて自分の胸元を見ると、いつのまにやら上から3つ目までボタンが外れている。いつのまに。
答えに窮し顔が赤くなる。会話が止まってしまった。
「ご、めんね……」
霊夢が熱を持った頬を冷ますように、片手で抑えながら、視線を外しつつそう謝ってくる。
「そんな……! その、霊夢が謝らないで……」
気恥ずかしさで時間が甘ったるい……。あ、そうだ。私は霊夢の頬に手を添えた。
「アリス?」
「…………」
「ひ、ったたたた!」
そのまま抓って横に伸ばしてみる。
「いわいわよ!!」
「うん。霊夢みたいね……」
「あんたねぇ……」
「まったく、どんな確かめ方よ……。」霊夢がぶつぶつと呟く。
張りつめていた空気が弛緩する。私たちは可笑しくて、顔を見合わせて同時に噴き出した。徐々に笑い声が大きくなっていく。
そんな中、霊夢がふっと微笑むような優しい表情をしてから、そっと口を開いた。
「……知ってた? 化け妖怪が変化するその姿は、相手にとっての意中の人らしいわよ」
「え……」
「私のところにはあんたが来たんだけどね。……大層珍しいって」
あっけに取られる私を余所に、霊夢は今度こそすたすたとドアの前に向かって歩いていく。その頬は赤かった。
「あ、そういえば…………」
「?」
「霊夢が言ってくれた言葉は…………、ううん、なんでもない……」
「……私が何言ったか知らないけど、化かす言葉は、より真実味を出すために、当の本人の本心に少しの色づけをするみたいよ」
「え……」
「だから、その……心配しなさんな」
霊夢は言いながら何かに気付いたように、部屋の中に戻ってくるとソファの上の子ぎつねの尻尾を掴んだ。そしてまた扉に戻る。
「今度神社にいらっしゃい。お茶でも振る舞うから」
机の上を指さし、「それが落ち着いた頃でも」と。ぶっきらぼうな、優しい笑顔。
「うん……!」
夏の夜の夢が与えた幻想は、夏の清流のように優しかった。
おしまい
「きつねうどんとたぬきそばでも作ってやろうかしら」
「それはさすがに……」
「とにかく、しばらくはお仕置きだから。尻尾縛って、天井から吊って」
「「きゅー!!(やめぇてー)」」
UP 13/8/20
プロット立てて、オチを意識して作ってみた作品。
無断転載・引用禁止
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